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ちょっと前の事になるのですが、昨年秋に日本に上陸した映画いのちの食べかたをごらんになった方もいるかと思います。
オリジナルタイトルはドイツ語で、Unser täglich Brotと言い、オーストリア人の監督Nikolaus Geyrhalterが2005年作成した作品です。同監督がヨーロッパ各国の農業現場を見て回って撮影し監修しています。
ナレーションや音楽、コメントなど一切なく、家畜の声、現場に響く音だけの作品です。映像が美しく大変魅力的なドキュメンタリー映画ですが、それに加えて話題になったのは、農業現場に密着した内容です。
一般の人ではなかなか目にする事ができない家畜の屠畜シーンや農薬散布現場、豚の虚勢や鶏のくちばしを切るデビーク、マスの自動はらわた除去機など、大変印象的です。
日本ではあまり一般的ではないのですが、季節労働者が外国からおんぼろのバスに揺られてやってくる様子や、上半身裸の屈強な男がはしご付きワゴンの上で黙々とパプリカを収穫する様など、農業現場で働く人の表情などは考えさせられるものがあります。
まだご覧になっていない方もいらっしゃるでしょうから内容に触れるのはこれぐらいにしておきますが、いわゆる農業や現場に対する露骨な批判や意見、映画の中で無数に繰る返される生産と管理に関する解説が一切なく、あくまで「農業の現実」を完全に写し取ったような作品で、おかしな表現かもしれませんが、どのシーンを見ても感動を覚えます。
普段食事をしていて、あたりまえに肉を食べたり野菜を食べたりしていますが、命を食べているのだという感覚は漠然と薄まってしまいがちです。 こうして映像で美しく表現されると、私達の食べ物がどうやって作られているのか、どうやって食卓へ運ばれてくるのか、自然と興味が湧くものです。その上、色々な切り口で表現される農業現場を見ていると色々な考えが浮かんできます。
それは、ただ目の前の食品に対する感謝ではなく、人間の営みの巨大さ、激しさ、農業の現状と進歩、或いは映像からは見えない一人一人の人間達の生活観さえも感じ取られるのではないでしょうか。
往々にしてこのような社会実態をテーマにした作品は評価を受けやすいものかもしれません。しかし、前評判や知識などを抜きにして、今一度、農業と食べる事に真正面から向き合う良い機会を与えてくれる作品ではないかと思います。
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